#06

当たり前のことを当たり前に。一喜一憂することなく、やるべきことをやり続けること。

FC東京 丹羽大輝

小学校入学と同時に、兄2人が通うサッカーと野球のクラブチームへ。4年生になると、6年生と一緒に試合をするなど、サッカーも野球も実力は飛び級レベルでした。中学に進学するときはサッカーに一本化。ガンバ大阪堺ジュニアユースへの入団が決まりました。以降、プロを含めすべての年代でキャプテンを務めるなど、プレーだけではなく、人格者としても周囲の信頼を集め、その存在感を際立たせてきました。

自転車に乗る父、そして兄二人と一緒に毎朝欠かさずランニングをした小学生時代。足に重りをつけて、「負けたくなかったらやれ!」という父の激励に応え続けたことが、「どのクラブに行っても一番」という現在の驚異的な持久力につながりました。中学時代は往復2時間、高校時代は難波から万博まで往復4時間。今となっては想像できないような過酷な自転車通学も丹羽選手の基礎体力向上に貢献しました。

「体力もつきましたけど、それだけじゃなくて自転車って、信号や曲がり角で予測が必要だったり、いろんな景色を見て五感を働かせたりして、脳が活性化されるんですよ」

そのときどきの環境を否定的にとらえるのではなく、ポジティブに楽しむことができる才能は、サッカー選手として欠かせない能力を知らず知らずのうちに向上させることになりました。

「指導者よりも多大なる影響を受けた」と、父の存在を真っ先に挙げる丹羽選手。「考え方」「心構え」「姿勢」を叩き込まれました。誰よりもトレーニングに打ち込むこと、周囲が休んでいるときこそ身体を動かすこと、ノートをつけること、毎試合録画をチェックして振り返ることで「うまくなっていく」感覚を明確につかめるように。忠実に父の教えを守り、成長実感が快感に変わり、成長スピードは加速していくことになります。ガンバジュニアユースのレベルの高さに衝撃を受け、ポジションを変えられ続けても腐ることなく必死に練習に取り組みました。そして100人もいた選手がどんどんふるいにかけられて脱落していく中、最後の10人の一人として堂々と試合に出続けることになります。3年の夏にはユース昇格を伝えられ、しかしながら喜びもつかの間。通学と練習の両立を考慮した、進学校へ入学するための受験勉強が始まりました。

「勉強はやってよかったと思っている」と丹羽選手。厳しい父の指導もあって、人一倍努力を重ねました。プロになった今、試合日から逆算して「今何をすべきか」を整理、課題をひとつずつ解決し、成果につなげることができるのは、学生時代の勉強がもたらしてくれた副産物。「俺の強み」と自負をのぞかせながら話を続けてくれました。

「課題解決能力が備わっていないと、サッカーでうまくいかないときに迷ってしまう。どうしていいかわからなくなって娯楽に逃げたり。そういう意味では勉強していてよかった。」

大切な試合で結果を残し、プロという高みを見ることができたのも、緻密な準備がここぞというときの平常心を生み出したから。プロと大学の二刀流は断念したものの、「大学に行きたい。知らないことだらけですから。」と、衰えることのない知的好奇心も、彼の成長を下支えしているように思えます。

「一喜一憂しない」ことがプロフェッショナルの条件。丹羽選手の信条でもあります。試合に出れないこと、ミスをすること、ケガ、練習でうまくいかないこと。プロで戦う選手たちが少なからず経験する日常。そういった日常は起こりえるものとして「じゃあ次はどうしようか」と、ネガティブな結果をプラスに転換できる人が、プロになることができ、プロになった後も活躍できると丹羽選手は断言します。

「ユースやプロになる人はみんなうまい。技術にほとんど差はありません。成果を分けるのはマインド」

そんな丹羽選手も、プロ1、2年目の時期は「緊張していた」そうですが、試合に出て経験を積むことで「まったく気にならなく」なりました。楽しさや幸せを感じながらピッチに立てる余裕は、適切な考え方をもって、毎日「当たり前のことを当たり前のように」できるようになればおのずと身についてくる、といいます。

「引退の『い』の字も見えない」

IT企業がサッカークラブに投資し、海外の一流プレーヤーが活躍する現在のJリーグ。外国人枠の撤廃が始まると、ピッチに立つことができる日本人選手が激減する可能性がある厳しい世界が待っています。本物しか生き残れない環境に対峙し、「積み上げてきた自信と、新しい時代への変化」を胸に、現役にこだわる意識はむしろ高まっています。大きなケガがなく、コンディションを維持することができる秘訣は「当たり前のことを当たり前に」できる才能のたまもの。そしてそう遠くない時期に訪れる激動の、日本人選手にとっては困難を極める時代においても、変わらずハイパフォーマンスを披露しているであろう丹羽選手を容易にイメージできるのも、彼の持つ「課題解決能力」と、目の前に起こる現象をプラスに転換できる才能があるからなのかもしれません。

目を見開いて、力強く、そしてよどみなく語り続ける丹羽選手。インタビュワーは終始心を揺さぶられ続けました。プロフェッショナルとはかくあるべき。経験と実績に裏打ちされたゆるぎない自信は、今後のさらなる活躍を大いに期待させてくれます。そして子どもたちや、これからプロを目指す高校生や大学生にとっても、非常に学びの多い言葉の数々だったのではないでしょうか。

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